ドライブ

「見て見て、場地さん!」
 大学から帰宅すると、待っていたと言わんばかりに千冬が駆け寄ってくる。まるで獲物を狩ってきた猫みたいに、得意げにそれを掲げてきた。
「取れたんだな、免許」
 視界に飛び込んできたカード。そこには黒髪の千冬が写っている。澄ました顔したこの男が、無免許でバイクを乗り回していた不良だったなんて、誰も想像できないだろう。
「仕事に必要で取ったんスけど、出掛けンのもいいっスね。場地さんと遠出したい」
「バイクじゃだめなん?」
「車なら荷物積めるじゃないスか。キャンプしたいっス。星を見にドライブすんのもいいなぁ」
 行きたい場所考えといてくださいね、と千冬は付けたして笑った。
 千冬がおとなになっていく。まだ学生の自分よりも、社会人として経験を積み、落ち着いた物腰になってきた。それでも未来を語る時の彼は無邪気で、少年のように純粋だ。
 もっと近くで見たい。煌めく瞳に吸い寄せられるかのように、彼の頬にくちびるを押し当てた。
「どーしたんスか、急に」
 不意打ちにキスにも動じず、千冬が優しく微笑む。余裕のある態度がまたおとなびていて、少し憎らしい。
「イイ顔してンなと思って」
「どんな顔っスか?」
「ワクワクしてる顔」
 言いながら頬を軽くつつく。
 千冬が思い描く未来には、いつも隣に自分がいる。当然のように口にされるたび、場地は面映かった。
「そりゃワクワクしますよ。場地さんとできること増えンの、すっげぇ楽しみだし!」
 千冬がぎゅうと首に腕を回してくる。場地は応えるように、逞しい背中をすぐに抱き返してやった。
「オレも取ろっかな、免許。そしたら交代で運転できンじゃん」
「いいっスね! でもその前に、獣医の免許をとってくださいよ?」
「わかってるって」
 いつもの小言に眉を寄せると、耳元でくすりと笑い声がする。見透かされたのが悔しくて、場地はそっと囁いた。
「オレはどこでもいい、ドライブすんの。千冬と一緒なら」
 腕のなかにある肩はびくりと跳ね、耳朶がみるみるうちに赤くなる。恋人の可愛い反応をやっと引き出せて、場地は満足気に微笑むのだった。